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CHCB-10072


遠TONE音
遠TONE音 / 遠TONE音

01. 潮騒 The Sound Of The Sea
02. 流水 Flowing Water
03. 峠 The Mountain Pass
04. 森 Forest
05. 遠野II Tono II
06. 雪景色 Snowscape
07. 茜雲 Dark Red Clouds
08. 古道 Old Road
09. 祈り Prayer


 みしみしと力強く。山道を行く旅人のわらじが、地面を踏みしめる。
 「今日は何里歩いたろう」。旅人は、ようやく峠にさしかかる。
額にはうっすらと汗が浮き出、団子とかかれた茶屋ののぼり旗が目に飛びこんでくる。ふと顔を上げると、そびえたつ富士の山・・・
広重の『東海道五十三次』の一場面が鮮やかに目に浮かんでくるような、どこか懐かしい情景。遠音の持つ、独特の世界観がそこにある。
山道を踏みしめる旅人の一歩一歩は、遠音の紡ぐ一音一音に通ずる。
遠音は日本の伝統楽器を使用しながらも、「尺八らしく、筝らしく」聞こえる奏法だけに頼ることなく、音の一つひとつにこだわって創作を続けてきた。
尺八、筝、ギターというシンプルな編成ながら、音の細胞が増殖しているかのようにふくよかさを醸し、あたかもオーケストラ編成までを思わせる広がりをもつのはそれゆえだ。
遠音は、88年の結成後、メンバーの生まれ育った故郷、北海道をテーマに活動を行ってきた。今回のアルバムでは、初めて日本という大きなくくりでイメージを膨らませたという。
 「これまで、私たちは北海道をイメージして曲を創ってきましたが、北海道以外の場所に住む、全国各地の方から“懐かしい”という感想をいただくことが多かったんです。私たちのなかでは北海道の原風景であっても、聴く方によって描かれる情景は違う。それでも、なぜか“懐かしい”という感覚は共通なんですね。では、“懐かしい”とはどんな感覚なんだろう? と思ったとき、“知ってる”ではなく、“知ってるような気がする”でもいいのかもしれないと・・・。たとえば、広重の浮世絵を見て、日本人なら誰しも懐かしいと思うわけです。でも、いま生きている我々のなかで、誰もあの風景に身をおいた経験はないし、ましてやあの時代の峠の茶屋でお団子を食べたことはない(笑)。それでも、懐かしいと感じられる記憶が、私たちには備わってるんだと思います」そう、三塚氏はいう。
 日本人のDNAにどこかしら組み込まれている、そんな“懐かしさ”。
 三塚氏はそれを、実際には体験してはいない、“遠い記憶”と呼んだ。
広重の旅の情景だけでなく、河や森、雪景色や茜雲など、日本の自然から切り取られた懐かしさも、アルバム全編に貫かれている。

上野まゆこ