アルバムを聴きながら、ニヤニヤ笑いが止まらなかった。クラシックの名曲たちが、これほどまでにfun&stylishに生まれ変わるとは・・・。ワクワクするような“East meets West”の絶妙なブレンドは、まったくもって、予期せぬサプライズだった。
いったいどういう経緯からこの企画が実現したのか。プロデューサーの吉岡一政氏に、アルバムにこめられた思いを伺った。「目指したのはシルキージャズです。今回取り上げたクラシックの名曲は誰もがよく知っている古典中の古典。まさに西洋の貴重なアンティーク作品です。一曲一曲を、華麗な大広間に飾られた家具に例えたとして、その上にシルクの布をふわっとかぶせたら、どんなシルエットが生れるか・・・その着想がこのアルバムの原点です」。
シルクとはもちろん、東洋を意味する。発祥の地はジャー・パンファン氏の故郷、中国である。東洋の古典楽器と西洋の古典との出会い。“East meets West”の世界観は、そんなファンタジックな着想からさらなる新境地を切り開くこととなった。
クラシックの名曲を、一皿一皿、音楽グルメも唸るヌーベル・キュイジーヌに料理にしたのが、今年結成27年を迎える「美野春樹トリオ」のリーダー、美野氏である。ピアノプレイヤーとしてはもちろんのこと、作曲家・編曲家としてさまざまなジャンルで活躍を続けてきた。「美野さんはミュージシャンからも絶大な信頼を寄せられるアレンジの天才です。いっぽうのジャーさんは、二胡奏者の天才。そんなふたりの天才がタグを組んだら、どんなアルバムが誕生するのか。そんな楽しみもありましたね」と吉岡氏。両者はここ数年、ライブでも競演、お互いをリスペクトしあう強い信頼関係を築いてきた。ジャー・パンファン氏の曲に対する理解力、表現力はとびぬけており、「それは卓越したテクニックがあってこそ成り立つもの」だという。美野氏はそんな彼の才能をあますところなく引き出そうと、さまざまなアレンジを試みた。
このアルバムは、既成概念にとらわれず楽しむことをお薦めしたい。ジャズとして聴くにせよ、ポップスとして聴くにせよ、もしくはクラシックとして味わうにせよ、リスナーのお気に召すまま。カテゴリにとらわれない、とことん開かれた“East meets West”の境地。どうやらそれが、天才同士の導き出した答えのようである。
上野まゆこ
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