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CHCB-10038


Nadi / 上田益
Nadi / 上田益

01. Welcome Rain(ウェルカム・レイン)
02. Padoma(パドマ)
03. Gandharva(ガンダルヴァ)
04. Monologue(モノローグ)
05. Masana's Song(マサナーズ・ソング)
06. Munbai Cafe(ムンバイ・カフェ)
07. Spiral Wind(スパイラル・ウィンド)
08. Shadow Flower(シャドウ・フラワー)
09. Tears of M(ティアーズ・オブ・エム)
10. Cosmic Spice(コズミック・スパイス)
11. Misty Road(ミスティー・ロード)
12. Eternal Varanasi(エターナル・ベナレス)


車、人、動物が種々雑多に行き交い、活気溢れるインドの街角。ヒンドゥーの精神世界にあって、与えられた人生を一生懸命に生きる人々の姿に、生きることの本質を考えさせられる、実にタフでエネルギッシュなところ・・・。そんな風景を想い浮かべながら、今、このアルバムを聴いている。

「アジア」を自分の創作テーマの根幹に持つ、上田益の新たなモチーフは「インド」。かつて上田は、中国シルクロードや日本の古都、京都といったアジアを象徴する場所を音に描いてきた。そこでは、仏教の声明や梵鐘を取り入れたサウンド・クリエーションが実にユニークであった。そんな彼が、前々から取り組んでみたいと思い、今回実現したテーマがインドだったのは、そこがアジアのチャクラ(生命エネルギーの中心)であるからだろう。 アルバム・タイトルの「ナディー」とは、インドの言葉で「大河」という意味。あの聖なるガンジス河をイメージして付けられた。ヨーガでも、身体の中を生命エネルギーが流れる経路のことを「ナディー」と言うように、インドの人々にとって、ガンジスは生命の流れそのものなのである。この世に生を受けた新たな命はガンジスの水で清められ、短い一生を遂げた屍もガンジスの流れに葬られる・・・。すべてはここで輪廻転生されるのである。

上田はそんな人間の生きる姿を描くほかにも、インド神話、南国特有の自然、お洒落な街角といったものを、自分なりの感性でとらえ、音にしている。そして、その実際のサウンド作りを共に手掛けた中に、現地インドのミュージシャンはひとりもいない。 最もインドらしさを彷彿とする弦楽器、シタールを演奏するのは、日本のインド音楽家としての第一人者、若林忠宏と、ジャズ・ミュージシャンとのセッションなども多い小林岳。ベナレス・ヒンドゥー大学音楽学部楽理科で学んだHIROSは、バーンスリー(竹製の横笛)を演奏。現代音楽、古楽器、民族楽器の演奏などでも活躍するオーボエ奏者の柴山洋。

このところ、ニューヨークやロンドンのワールド・ミュージック・チャートでも、インド系アーティストによるテクノ・インディア・サウンドが話題を呼んでいる。一方、上田の場合は、インド人の手に寄るものでない、日本人である彼の眼を通した「インド世界」の展開である。

「新鮮さを失わず、パロディーでもなく、ましてや小手先の感性を振りまわすのでもなく、言いかえれば楽曲が人の心の奥底まで届き、記憶に残り、豊かなイメージを喚起し、そして心地よい響きとして包み込む事ができるよう、そう願いつつ音を紡いでいる」と語る上田益。さて、みなさんはどう感じるだろうか・・・。

音楽評論家・石谷崇史