アジアの女性の肌はきめ細かい。
ラテンの女性を代表するシンボリックなアイコン“カルメン”のように、全身から、常にあますことなく情念を放出することはない。薄い皮膚。繊細なきめを通して、内に秘めたさまざまな感情を凛としたまなざしで他者に投げかける。時にはふんわりと。時には突発的に。アジアの女性のこころのゆらぎは、静謐だが激しい。沈みゆく夕陽に向かって背筋をぴんと伸ばし、ただひとり佇むような潔さ、芯の強さ。熱い血潮とともに流れる情念に、静かに穏やかに向き合う度量とでもいうのだろうか・・・
女性は本能的にたくさんの顔を持っている。コトバにできない、形に表せないたくさんの「おんなであるがゆえ」の感情を抱えている。アジアの女性はことさらである。優しさ。厳しさ。豊かさ。激しさ。・・・コトバにするとまったくもって陳腐である。さまざまな情念は、このさい音に託すしかない。
「GRACES OF ASIA」は、その複雑に絡みあう情感を、アジアの女性アーティストたちが見事に表現したアルバムだ。二胡、筝、の哀切に満ちた弦のふるえが。清々しい声の響きが。ピアノから紡ぎだされる指先からの真摯な一音一音が。細やかなきめを縫って、あふれんばかりにアジア女性の美しさ、豊かさを聴くもののこころに喚起させる。
さらにたっぷりと匂い立つのは、優しい色香、艶やかさ。何百年も何千年も、繰りかえし繰りかえし原始から愛を育んできた女性という“性”の情熱。大地の子を産み、支えつづけてきた母性という本能。
“性”が“聖”に昇華されていく瞬間を持つことを許された、女性ゆえの大きな包容力がアルバム全編に貫かれている。彼女たちの奏でる音は、包み込むように力強い。どんなに微細ではかなく消え入りそうな音色であろうとも、その源泉にあるのは、ふつふつとみなぎる生命のエネルギーにほかならない。何ものをも恐れない、堂々たる誇りから生まれる慈愛。それこそが、アジア女性の持つ「GRACE」の真髄なのである。