和太鼓は日本以外でも人気が高い。鼓童、鬼太鼓座といったグループやソリストとして新天地を切り開いた林英哲の海外公演はどこでも賞賛されているし、世界各地の日系人コミュニティーでは、若い人たちが自らのアイデンティティを求める気持ちから和太鼓のグループを作って活動している。和太鼓、尺八を入れた日本のロックバンド「六三四」も中南米やアメリカ西海岸などの公演でで好評を博しているし、ロサンゼルス出身の日系2世を中心にしたバンド「ヒロシマ」は和太鼓と箏を洋楽器と組み合わせたサウンドで1970年代以来、アメリカ音楽界に確固とした地位を築いている。そうした状況の中、1999年にシンセイザー・オペレイター、音楽プロデューサーの吉田潔が和太鼓をフィーチャーして作ったアルバム「打 Asian Drums」をパシフィック・ムーン・レーベルから発表、全米FMニュー・エイジ部門総合チャートのアルバム部門16位に
送り込んだ。
今回発売された「打II Asian Drums II」はその成功の余勢を駆って制作された第2弾というわけだ。和太鼓というと、日本人は張り詰めた独特の間、威勢のよさ、勇壮さなどなどをすぐに思い浮かべるだろうが、吉田はそれらと全く違った方向性で2つのアルバムを作ったのではないかと私には感じられる。伸び縮みする日本的な間は前面に出さず、基本的ななビートのキープを基本とする。また、リスナーに向かって飛び出してくるような刺激的な音色を避けて優しい中音域を中心とする。この作戦は、シンセサイザーと和太鼓をブレンドさせるための一つの有効な手だてだ。本来は先陣を切るタイプの和太鼓が、あえて後陣にさがって全体をバックアップする。一発の音で自分の世界を作ってしまう和太鼓が少し我慢することで、一つの個性を持つことなく変幻自在に姿を変えるシンセサイザーが表面に浮かび上がってくる。ここでの和太鼓の役割は、激しくあおり立てることよりもモノトーン的な安定したムードを設定することだ。シンセサイザーによって作られている音の中で出番が多いのは、三味線のユニゾンのようにきこえる部分。このアルバムの中においては比較的華やかで明るい音色を持ち、スピード感のあるフレーズで音楽を前へ前へと引っ張っていく役目を果たしている。和太鼓を演奏しているのは小林政高率いる「梵天」である。
松本泰樹
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